そんないい環境でもやはり毎日の疲れがたまるとダウンしてしまうことが何度かありました。そんな時は必ず近くの内科医院に行きました。
ある日、また具合が悪くなったのでその医院に行きました。いつものように尿検査やのどの吸引、簡易ベッドに横になりながらの点滴、そして診察、薬をもらって帰りました。体調崩しても仕事がなかなか休めないので、こうして点滴を打ってもらうとだいぶ良くなるし本当に助かります。またここの薬は私の体に合うようで、とっても良く早く効きました。これでもう無茶しなければ安心です。数日後には元気になる、はずでした。
しかしこの時はしつこいカゼだったのか、いつもだったらすぐ良くなるのになかなか良くなりませんでした。しかも何故か手に力が入らない上、ふるえるのです。
やっと私の番がきて、診療室で先生は「どうかしましたか?」とにこやかに聞きました。「手がふるえるんです」と話すと、先生は私の手を握り、うれしそうに言いました。「大丈夫ですよ、すぐに治まります」と・・・。
そして机の引き出しを開け、「これを見て」と1枚の紙を見せてくれたのです。その紙には“沢口靖子”とサイン風の文字がありました。「えっ?沢口靖子・・・?」と驚くと、先生は「そう、沢口靖子。彼女もね、あなたと同じ薬を飲んで同じように手のふるえがあったんですよ。だから大丈夫!」と先生は自信満々に、自慢げに話します。私はとにかく芸能人のサインをいきなり見せられたことで驚いてしまい、「はぁ〜、そうなんですか」と妙に納得してまた薬をもらって帰りました。
家に戻って床に就き、よくよく考えてみると、結局手のふるえは何だったの?って疑問が湧いてきました。あれは薬の副作用だったってこと?沢口靖子が同じ症状だったからって説明になってないんじゃ?う〜ん・・・。
その夜、夫にその話をすると、「あれっ、知らなかったの?あの先生かなりミーハーなんだよ!」そして、「待合室に大相撲の某人気力士のサインとか写真とか飾ってあるじゃない」って言うのです。そ、そーいえばあったような気もするけど・・・。あの沢口靖子のサインをうれしそうに、待ってましたとばかりに見せてくれたあの姿を思い出し、おかしくって大笑いしてしまいました。
それから少し経って、先生のお言葉通り手のふるえは治まり元気になりました。その後もその医院には私たち時々お世話になりました。千葉県柏市に引っ越してからも何度か診察してもらったのですが、その度に先生は「千葉県からも来てくれるんだよ!」って大きな声で他の患者さんや看護師さんたちに聞こえるように自慢げに話していました。あの時も「沢口靖子も来た医院」って誰かに自慢したくてしょうがなかったのかも。(ちなみにこの辺りには劇団があったようで、俳優さん・女優さんが行き来していたようです)
本当にミーハーなお茶目な先生だったけど、あの医院はいつも待合室いっぱいで繁盛(って言っていいのかわかりませんが)していましたから、先生は名医?だったんだと思います。さすがに今では川崎市までは遠いので行かなくなりましたが、十数年前の忘れられない出来事です。




