
*写真はあおいのママの撮影です。(左から横田拓也さん、ジャーナリスト・惠谷治さん、北朝鮮難民救援基金理事長・加藤博さん)
*講演要旨レポートです。聞き取りに間違いやカン違いの可能性もございます。どうぞご了承ください。講演は約20分間でした。(主催者より掲載許可をいただいております)
【加藤博さん・北朝鮮難民救援基金理事長】
ご紹介いただきました北朝鮮難民救援基金の加藤でございます。(拍手)貴重な場を提供していただきました救う会神奈川に厚く御礼を申し上げます。
今日はですね、普段と違って私は少々辛口な話をするかと思います。皆さんももうすでにご存知の通り、拉致問題を巡る状況は非常に容易ならざる状況だというふうに思います。それは先日の六者協議の中身を見てもわかる通り、アメリカが大きく変身をしました。これは身が変わるという意味でもありますし、気持ちが変わったという意味でもあります。この辺の事情については私よりもはるかに詳しい方がたくさんいらっしゃるかと思いますので詳しくは申しませんが、実際にはそのようになっていると思います。
その典型的な例は“バンコ・デルタ・アジア”(BDA マカオの銀行)で、これは偽札のマネーロンダリングをした張本人なのですが、ここと取り引きをしたと。ここの資金、不法資金の凍結を解除しました。これは北朝鮮にとっては非常に大きなプラスですね。逆に言えばこれがあるために北朝鮮は息の根を止められそうになっていましたが、そういうことがあるにもかかわらずアメリカは直接六者協議のテーマである“核問題”とは関係のない“不正資金の問題”と取り引きをした、ということですね。
これは全体的に今、北朝鮮の核問題やその他の人権問題を解決するための大きな制裁決議が、世界的な規模で行われようとしている制裁決議が、大きく綻んできたということだと思います。綻んだということは、これは昨年の12月の国連総会で北朝鮮に対する人権非難決議案が通りましたが、これは世界が合意して北朝鮮に対する制裁が始まった、という意味でした。
しかしアメリカが六者協議の中で変身をしたことによって、これは非常に有名無実になりかねないという方向に大きく流れていると理解すべきだろうと思います。
日本が独自で経済制裁をするということは、日本国・日本国民としての立場を明確に北朝鮮に知らせるという意味では有効なことでありますけれども、実際にこれが解決の糸口になっていくというのは大変難しい状況になってきています。つまり日本がこのままの状態でいけば孤立化していき、拉致問題は日本の問題というかたちになって、これは六者協議のもとでの二国間の問題という位置づけで、先日ハノイでやられましたようなかたちにどんどんと二国間の問題になっていきます。
アメリカは核問題をやる、日本は拉致問題をやる、そして韓国は南北の共同の民族同士というスローガンのもとに経済支援をしていく。各国がもうバラバラに他所を向いているんですね。で、中国はピースメーカーとして一番いい役回りをして調停役としてやっている、平和主義者の顔を世界に振りまいている、そういう状況になっているんだろうと私は思います。
ですから今のままの状況では、日本からの発信力というのは相対的に低下せざるを得ない、ますます弱くなっていくんではないかというふうに思います。
こういう状態では、すべての問題の根源である金正日体制の独裁体制に由来するところの拉致の問題、人権の問題、核の問題、すべてがやはり解決するのは難しいだろうと思います。このような大きな流れをどうして解決するのか、というのが私たちの目の前に突きつけられたそういう課題じゃないかと。つまり政治家は変身したんですね。自分たちの政治目的のために人権も拉致も横にしてしまう、捨ててしまう、そういう状況になります。でもこのような状況はいっぺんに起こるわけじゃありません。
私たちが昨年の12月に“北朝鮮人権侵害啓発週間”という週間のもとで日本版北朝鮮人権法が提示され、その人権法に基づいて“北朝鮮人権侵害啓発週間”というのが行われました。その中の国際会議で、いみじくも今私が言ったようなかたちを指摘しました。これは私が指摘しただけではなくて、そこに参加されたアメリカからの代表も日本の他の代表も、それから韓国からの代表もそのように言ったわけですね。
ですから、それは一日にして変身するものではなくて日々変わっていく。結論はわかっているが、強気に結論を導き出したとしたら国民の反応は世界の反応は激しいものになります。ですからそのようにはせずに徐々に徐々に変えていくというかたちにはなるけれども、最終的には私たちが考えているような人権の問題、それから拉致の問題、これが解決できない方向に行ってしまうんじゃないかと非常に危惧しています。
それでそのためには、政府頼み、あるいは政治家頼みではダメで、私たち一人ひとりが「かくあるべきである」という確固とした戦略目標というものを、それからそれを実行するための政治的手段を作っていかなければならない、そういう段階にあるのではないか、と私は思っています。
私たちが拉致の問題で思うことは、こういう集会をやって日々その状況について知ることは必要ですれども、先ほども言いましたように、アメリカの国内あるいはヨーロッパの方にも拉致問題について提起はしていますが、しかしその多くの意見が、必ずしも日本の国民の意識や意見とは一致していない、つまり「日本の拉致問題は北朝鮮と話をすればいいんじゃないか」という考えがまだまだ強いですね。つまり「二国間の問題だ」という考え方だと思います。
ですから六者協議の中でも「二国間問題としてこの問題を解決するように」と「主要テーマからは外してしまおう」というようなかたちをどんどん進められていることだろうと思います。
この拉致問題を大きく私たちは今まで前進させてきたと思います。救う会も全国にできて、家族会も頑張って、そしてその主張を支持する多くの国民があってここまできたと思うんですね。しかしこの動きが今、梯子を外されてしまうかもしれないという状況にあるのではないかと思っています。
「私たちが大きな戦略目標を持ってその手段を構築すべきだ」と私は言いましたけれども、北朝鮮の独裁体制の問題からこの問題が起きているならば、これは拉致問題だけではなくて、北朝鮮における強制収容所の問題、それから化学兵器の開発、核兵器の開発、すべて関係があるんですね。ですからそういう問題として位置づけて、拉致問題もその中の一つである、というそういう包括的な問題として考えていく必要があるのではないかと私は思います。
そして今まで拉致問題の多くの情報が、これは日本政府がもたらしたものでもなく、北朝鮮から逃げ出して韓国にやって来た脱北者、北朝鮮の難民ですね、私たちは「成功した難民」と言いますけれども、ようやくの思いで韓国にやって来た、そういう人たちの中から得られた貴重な情報によって拉致問題を今までここまで前進させてきたんだろうと思います。
しかし、これは言ってみれば私たちはそういう人たちの存在を知り得たから、そういう発展の道筋を見つけられたのであって、まだまだ多くのそういう情報を提供できる人たちがいるに違いないんです。
私たちは救う会がどれ程そのことをやっているのかは分かりませんけれども、私が言えることは、北朝鮮難民救援基金としては北朝鮮から脱出してくる難民を助けて保護しています。この数は年々増え、もう昨年で韓国に到着した人間は1万人を越えました。日本に来た人間は150人になります。これからも増えます。それで今年の2月の末から北朝鮮難民の実態調査団をタイに私たちは送りました。特定失踪者問題調査会あるいは北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会、それからカナダの人権活動家、アメリカの人権活動家を入れて調査しました。そうしましたところ、一昨年は北朝鮮から脱出して来てタイにたどり着き、タイが国外退去処分にした北朝鮮の難民人は900人で、そしてこれは2005年が100とすると2006年は300を越えています。そして今年2007年のもう2月だけで120名越えています、2月までで。
このように急速に増えているんですね。しかしその中にどういう人たちが含まれているかということについて、つまり拉致問題や北朝鮮の独裁の情況についてもっと的確で、私たちが有効に利用すべき情報を持っている人がいるかもしれないんですが、その情報を得ることができません。その人たちが今望んでいるのはアメリカに行くこと、韓国に行くこと、日本に行くことですが、彼らがそれぞれの国に行ってからではその政府の統制があるために、その状況を的確に知ることができないんです。本当に拉致問題を解決するというのであれば、難民問題も同時に解決するように脱出して来た人間から情報を的確に取るような体制を取らなければいけないんですね。これはNGOだけでは無理なのかもしれませんが、だからといって政府にやれと言っても政府はできないんですね。これをやるのはやはりNGOしかないんです。
ですから、この難民から的確な情報を収集して、これを解決に役立てるようなそういう組織を新たに展開させる必要があります。それぐらいの大胆な発想と大胆な行動力がなければ、今の状況を突き破って、新しい情報を入れて、世界の世論を変えていくだけの力にはならないだろうと思います。我々はここで話を聞いているだけではダメで、実際にそういう何らかの活動、力に結びつく活動を展開しないと難しいと思います。
ですから私の考えとしては、積極的な難民の受け入れというのは、北朝鮮国内から直接的な情報を得る貴重な場でありますから、そのように色んな場所にそれぞれの相応しいかたちでそういう機関を作っていく、NGOが作っていくということがどうしても必要だろうと思います。ですからそういうアピールがあった場合には皆さんの中からぜひ参加してもらいたい。力のある人は力を、お金のある人はお金を、知恵のある人は知恵を出してもらいたいと思います。
そのためには、一つ一つの可能な限り実態調査団をどんどん派遣していく、その中で一つ一つ情報が広げられていく、そういう地道な活動が必要だろうと思います。これは私の個人的な発想の段階ですが、日本を主体として北朝鮮の人権問題、拉致問題も含めた人権問題をフォローするためのそういうNGOを展開する、それをタイやラオスで展開するだけの大きな動きをぜひ作っていきたいと思っています。
積極的な北朝鮮難民の受け入れは効果的な反撃の材料になります。ぐらついている政治家の気持ちを正し、曲がった方法を正し、そして実際の問題を解決する力になり得ると思います。
私はそのためには色々やるべきことはあると思いますが、それと同時に北朝鮮の国内に直接メッセージを届ける方法を考えなければいけない。まだまだ北朝鮮国内では外の世界のことが分かっていません。日本から放送される“しおかぜ”は妨害電波にやられます。これは彼らが恐れているという証拠ではありますけれども、効果的な影響力を及ぼすという点では限界があります。もちろんやらないよりはやった方がいいしやるべきだと思いますけれども、これだけで満足していてはダメですね。
直接北朝鮮の国民一人一人が自分の目で見れるような、自分の目で読めるようなものを手にする必要があります。そのような直接メッセージを届ける方法について、北朝鮮の国民の中の良識・良質な部分にこのメッセージが届くような工夫もしなければいけない。そういう問題を抜きにして、いくら私たちが遠くから北朝鮮の非人道的な非民主的な独裁的なことを言っていても彼らが変わる可能性はないと思います。
私は皆さんに、北朝鮮に直接メッセージを届けるための行動提起があった時にはぜひそれに参加していただきたい。今の段階でどういう行動提起をするかというのは私の口からは今は申し上げられませんが、それは近々そういうことになるだろうと思います。私の方からはこのぐらいにしておきたいと思います。以上です。ありがとうございました。(大拍手)
終わり




