「♪星の世界 月の世界に訪ねていって 発電所を建ててみようか♪」北朝鮮で広がる格差。「社会主義でこんなやり方あるの?」反発し始めた民衆。さらに―。「金正男はお父さんに怒られて・・・」ポスト金正日を論じる主婦まで。大きく変わる民衆の意識を、北朝鮮人ジャーナリストが撮った。
内部映像 北朝鮮人のジャーナリスト
【司会者・田丸美寿々さん】(スタジオにて)
「さて続いての特集は北朝鮮です。本来なら週明けには南北首脳会談が実現するはずだったんですが、ご存知のように北朝鮮の大洪水の影響で延期となりました。90年代の半ば以降というのは、北朝鮮を度々大水害に見舞われているわけなんですが、それはただ異常気象の影響というだけが原因ではないようです。
今、北朝鮮の中で起きています様々な変化の実像を、北朝鮮国内に住み、極秘で取材を続けていますリ・ジュン氏の最新映像を通してご覧いただきます。」
内部映像 誰も知らない北朝鮮
【ナレーター】
アパートの部屋で対面する二人の男性。(中朝国境)黒いカバンから取り出された物はビニールで密封されたビデオテープ。「全部で・・・?」「10本です」
北朝鮮人のジャーナリスト、リ・ジュン氏とアジアプレスの石丸次郎氏です。二人は4年前から取材チームを組んでいます。リ・ジュン氏が北朝鮮内部で秘密裏に撮影し持ち出して来たビデオテープ。そこには大きく変わり始めた北朝鮮社会の生々しい現実が収められていました。
拭き取られたレンズに映ったのは、まだ雪が残る咸鏡北道(ハムギョンホクドウ)の漁村。薪(マキ)を引きずって歩く人々がいました。自分たちが燃料として使う他、売って生活の糧にもするのです。朝鮮人ジャーナリスト、リ・ジュン氏は子どもに近寄りました。
【北朝鮮人のジャーナリスト リ・ジュン氏】ビデオ映像
「君たち、薪(マキ)でご飯代稼いだな!靴下は履いてないの?」
【北朝鮮人のジャーナリスト リ・ジュン氏】(アパートにて)
「引きずっているのは丸太でしょ。漁村なのに、こんな暮らしをしているんです。8キロも離れた山に薪(マキ)を取りに行くんです。」
【ナレーター】
エネルギー不足の北朝鮮。人々は山で薪(マキ)を切り燃料にしてきました。それがあの問題を引き起こしたとも言われています。
【北朝鮮のニュース】VTR
「平壌市では大同江(テドンガン)の水があふれ、川べりで作業していたクレーン車が水につかり・・・」
【ナレーター】
北朝鮮を襲った大水害。田畑は水没し交通はマヒ。全国で数百人が死亡もしくは行方不明になったといいます。1990年代以降、頻繁に起こる大水害。北朝鮮人ジャーナリスト、リ・ジュン氏と取材チームを組む石丸次郎氏はこう言います。
【アジアプレス・石丸次郎氏】
「やはり電力政策・エネルギー政策がちゃんとできないが故に、人間が生活するための煮炊き用の薪(マキ)を山で木を切ってくるってことをずっと繰り返してきました。それが故に今度は山に保水力がなくなって、表土が流されてしまってですね、ちょっとした雨が降ると一気に川の水が増水してあふれて洪水が起こるという、そういう構造的な問題に発展してしまったんですね。」
【ナレーター】
「大水害は経済破綻とエネルギー不足が招いた人災である」という指摘。そのエネルギー不足の深刻さを示す映像があります。
大きなポリ容器を持った人たちが集まって水を汲んでいます。ここは北朝鮮第三の都市・清津(チョンジン)ですが、水道はないのでしょうか?
【北朝鮮人のジャーナリスト リ・ジュン氏】(アパートにて)
「電気があまりにも弱いので、ポンプで水を吸い上げられないのです。4キロくらい離れたところから来る人もいます。50リットルのポリタンクを手押し車に載せて水を運んでいくんですよ。」
【ナレーター】
「水が供給できない原因は電力の不足にある」というのです。さらに・・・。カメラに微笑む大家族。自宅で行った結婚式の映像です。髪飾りの花嫁もごちそうに舌鼓を打っていましたが・・・。暗くなった映像。宴の途中で日が沈んでしまったのです。電気は来ていません。
【結婚式の家族】ビデオ映像
「♪長い人生の道のりで・・・♪」
【北朝鮮人のジャーナリスト リ・ジュン氏】
「電気がないからテレビを見ることもできず、日が沈んだら暗くなるのでみんな寝るしかないんです。簡単に言えば人間らしい生活ができないんです。食べたら寝る、動物のような生活です。」
北朝鮮の幹部宅に極秘カメラが
【ナレーター】
断続的に開かれる六ヵ国協議。北朝鮮は重油の他、発電所を改修する資材や機材などの支援も要求しています。その一方で核廃棄への道筋はまだ見えてきません。
【北朝鮮のニュース(1月1日)】
「核抑止力を持ったのは、誰も揺るがすことのできない不敗の国力を渇望してきた我が人民の世紀の宿望を実現した民族史的な慶事だった」
【ナレーター】
今年の正月には、核実験成功をこのように誇っていた北朝鮮ですが・・・。北朝鮮地方政府の幹部の家で、密かにカメラを仕掛けるリ・ジュン氏。幹部たちは打ち解けた様子でこんな会話をしていました。
【北朝鮮地方政府の幹部1】ビデオ映像
「私は未だに地下核実験のことがわからない。地上から地下に撃ったということ?それとも地下から撃ち上げたということかなぁ?」
【北朝鮮地方政府の幹部2】
「核を実験したということだよ。」
【北朝鮮地方政府の幹部3】
「地下から大陸まで飛んでいくと言うけどさぁ」
【北朝鮮地方政府の幹部1】
「だから核実験って何なんだよっ!」
【ナレーター】
ミサイルの発射と核実験とを混同して話している地方政府の幹部たち。仕掛けられたカメラの前でさらにこう語ります。
【北朝鮮地方政府の幹部4】ビデオ映像
「地下核実験というのは、地下を貫いていくことだ。上から撃ったということではなく、地下で撃って地下を貫いて、太平洋に出て行く実験だということだよ。」
【北朝鮮人のジャーナリスト リ・ジュン氏】
「実は人民たちは、核というものが何なのかわかっていません。核を持ったことで何がいいのか考えもしないし、誇りに思っているわけでもないのです。周囲で言われている言葉をオウム返ししているようなものですよ。」
【ナレーター】
北朝鮮の人々が関心を寄せるのは、核兵器よりもどうやって食べていくのかです。韓国は(8月)23日から北朝鮮の大水害に対する緊急人道支援を開始。日本円で12億円以上の支援物資を送り始めました。しかし、水害で苦しむ庶民に行き渡るかどうかは不透明です。
リ・ジュン氏は地方政府の幹部の家でこんな映像を撮りました。部屋に積み上げられた大きな袋。大韓赤十字社の文字がありました。韓国の援助米を自宅で備蓄しているのです。無償で北朝鮮国民に届けられるはずの食糧が市場に横流しされ、富裕層に大量に流れています。
【北朝鮮人のジャーナリスト リ・ジュン氏】
「支援物資を幹部たちが山分けして食べ、残りを民衆に高く売りつけるので、苦しむのは民衆だけなんです。」
【ナレーター】
食糧以外にも支援物資で横流しされている物があります。
内部映像 誰も知らない北朝鮮
【ナレーター】
市場に座り込んでいる女性たち。何かを売っているようです。カバンから取り出したのは錠剤、薬でした。渡した後、しきりと周りを気にしています。路上で売買される薬。
【北朝鮮人のジャーナリスト リ・ジュン氏】(アパートにて)
「座っている人はお医者さんで、立っている人たちはお客さんです。」
【アジアプレス・石丸次郎氏】(アパートにて)
「国際支援の薬ですか?」
【北朝鮮人のジャーナリスト リ・ジュン氏】(アパートにて)
「そうです。国内での薬の生産は止まっていますから。あのように一粒一粒数えて売るんです。誰にも見られないように隠しているんです。今や無償治療制なんて言葉だけです。病院に行っても診察だけで治療はできないんです。」
【ナレーター】
恒常化する食糧や薬の横流し。今回の大水害に対する人道支援にも懸念が示されています。
【アジアプレス・石丸次郎氏】
「今までの北朝鮮の社会のあり方を見たら、当然今回の洪水に対する国際社会の支援物資も横流しされて市場に回されていくと思いますね。雨が降って洪水が起こったと、これを喜んでいる連中がいると思います。」
【ナレーター】
横行する不正腐敗。利益を得ているのは特権階層です。
北朝鮮の富裕層 エリート教育
【ナレーター】
美女応援団のような映像ですが、実は幼稚園の地域対抗運動会です。北朝鮮の特権階層が娘の成長記録をビデオ業者に撮影させたものです。白いドレスを着たこの女の子が主人公。真新しい自転車に乗る姿の他、ピアノをひく姿も収められていました。北朝鮮で新たに生まれた富裕層。金の主(カネのヌシ)という意味で“金主”(トンチュ)と呼ばれています。
海水浴をする子どもたち。これも北朝鮮の映像です。党や軍の幹部、富裕層の子どもたちの合宿をビデオ業者が撮影したものです。子どもたちは言わば北朝鮮式エリート教育を受けています。
【富裕層の子ども】ビデオ映像
「♪守っていこう 強盛大国 永遠なる将軍様について行って♪」
【ナレーター】
金正日総書記への個人崇拝の歌もありますが、こんな歌もあります。
【富裕層の子ども】ビデオ映像
「♪月の世界 星の世界に訪ねていって 発電所を建ててみようか 限りない あの海の上に 豊作の村をつくってみようか♪」
【ナレーター】
特別な教育を受ける幹部や富裕層の子どもたち。その一方で庶民はまだまだ厳しい暮らしを強いられています。
内部映像 誰も知らない北朝鮮
【ナレーター】
扉を開けるとそこは海。北朝鮮北部・清津(チョンジン)近郊の漁村です。何かを拾う男性がいます。貝でしょうか?
【地元の漁師】ビデオ映像
「1キロにもならない。200グラムか300グラムかな?」
【ナレーター】
男性が拾っていたのは“くず鉄”でした。
【北朝鮮人のジャーナリスト リ・ジュン氏】
「ウニなどの高級海産物は主に日本に輸出していたんですが、完全に輸出が止まったため猟師たちの生活が苦しくなったんです。」
【ナレーター】
日本の経済制裁で海産物の輸出ができなくなり、漁師の生活は困窮しているといいます。益々大きくなる貧富の格差。さらにこんな問題も・・・。
北朝鮮 不動産をめぐる攻防
【ナレーター】
自転車が走る道を取り囲むように白い壁があります。住民たちが壁を作り、自分の土地であると主張しているのです。しかし・・・。
【政府機関・都市経営打撃隊】ビデオ映像
「人民班長を通じて知らせたはずだっ。一世帯も漏らさず執行しなさい。垣根を囲うのは許さない!」(マイクで通告する映像)
【ナレーター】
政府機関・都市経営打撃隊の強制執行。周りには壊された壁の残骸がありました。
【アジアプレス・石丸次郎氏】
「もともと北朝鮮っていうのは、土地や建物・不動産っていうのは国家所有ですから、これは個人の財産じゃなかったんですね。しかしながら十数年ほど前から不動産の取引・売買は当たり前になってきました。まぁこれはアンダーグラウンドですけれども、不動産業者のようなものまで発生していると。これはですね、北朝鮮の社会の根本的なあり方と真っ向から対立する考え方ですね。」
【政府機関・都市経営打撃隊】ビデオ映像
「何回も撤去せよと言ったじゃないか!国家は法律に基づいて公務を執行するんだ。法律を一つも守らないくせに個人の財産だ利益だなどと言いつのるんだからっ!」
【ナレーター】
財産所有の意識を持ち始めた住民は、不満をあらわにします。
【女性住民】ビデオ映像
「もうっ!腹が立って死にそうだよっ!一体何なの、この無茶な強制執行は!社会主義のどこにこんなやり方があるの?ふんっ!!」
【ナレーター】
当局へのあからさまな反発はかつての北朝鮮では考えられないことです。市場経済化が生み出した人々の意識の変化。指導者に対する意識も大きく変わりつつあります。
北朝鮮の金星将軍とは・・・
【元将校と地方政府幹部らの会話】ビデオ映像
(男性1)「おお!ピョンヤンのお母さんのことか!」
(男性2)「人民軍内では、ピョンヤンお母さんが話題になってるね。」
【ナレーター】
停電の中、リ・ジュン氏が撮影した軍の元将校や地方政府幹部との会合。“ピョンヤンお母さん”というのは、金正日総書記の4番目の妻とされる高英姫(コ・ヨンヒ)夫人のことです。その息子(二男)、金正哲(キム・ジョンチョル)氏にも話題は及びました。
【元将校と地方政府幹部らの会話】ビデオ映像
(男性1)「♪ピョンヤンお母さんと一緒にいた時には♪ 軍隊ではこの歌を歌わせているんだ。」
(男性2)「1番目の妻は成恵琳(ソン・ヘリム)だったっけ?2番目の妻との間には子どもができなかったようだねぇ。」
【ナレーター】
金正日総書記の家族に関する話題はタブー中のタブー。人の名前など正確な情報が話されていることも驚くべき変化です。さらに・・・。
【元将校と地方政府幹部らの会話】ビデオ映像
(男性1)「人民軍内では息子のことを“金星将軍”(キンセイショウグン)と呼んでいるそうだ。」
(男性2)「末っ子に男の子がいるけど、まだ若いそうだよ。」
【ナレーター】
二男の金正哲(キム・ジョンチョル)氏が“金星将軍”と呼ばれている。未確認だったウワサが北朝鮮国内で広まっていることが新たにわかりました。
ポスト金正日を論じる主婦
【ナレーター】
さらに金正日総書記の長男(金正男 キム・ジョンナム氏)については、咸鏡北道(ハムギョンホクドウ)に住む普通の主婦ですら詳しく知っていました。
【咸鏡北道に住む主婦】ビデオ映像
「ラジオで聴いたんだけど、金正日の後継者問題で出ている金正男はお父さんに叱られて今マカオに行っている、という話よ。あんた聞いた?金正男がマカオに大きいホテルを建てて妻や子どもと住んでいて、食堂にも行ったりしているらしい。この前、中国に来たようね。」
【ナレーター】
後継者問題にも詳しくなったこの女性。「韓国やアメリカが北朝鮮に向けて流しているラジオ放送を聴いた」と言います。
【咸鏡北道に住む主婦】ビデオ映像
「金正男は後継者選びで少し外されたようよ。別の母親が産んだ金正雲(キム・ジョンウン)と金正哲(キム・ジョンチョル)がいるけど、年も若くてお父さんは後を継がせる気もないんだって。」
【アジアプレス・石丸次郎氏】
「後継者の問題が実名入りで出てくると。場合によっては金正日のことを呼び捨てにまでしている人もいました。さらに言えば、北朝鮮の一般の人たちが指導者に対してかつてのような恐れも抱かないし、また忠誠心も希薄化していった結果なんではないかと・・・。」
【ナレーター】
激変する北朝鮮。若い世代の意識はさらに・・・。
内部映像 誰も知らない北朝鮮
【ナレーター】
これは北朝鮮の富裕層の子弟たちが開いた誕生日パーティーの映像です。
【富裕層の若者】ビデオ映像
「♪生死ともにする戦友 永遠なる我が戦友♪」
「♪あぁ〜 同志よ♪」
「♪同志愛とは 何なのか♪」
【ナレーター】
権威の象徴、金日成・金正日親子の肖像画が掲げられる部屋。若者たちは(ギターをひきながら)昔から歌われる軍隊の歌をポップス調にアレンジして踊っています。確実に世代は変わっていくのです。
北朝鮮人のジャーナリスト、リ・ジュン氏も現在30代。自分の国の核開発が大きな問題になっていることを十分に理解し、こう訴えます。
【北朝鮮人のジャーナリスト リ・ジュン氏】
「核兵器を造って世界を脅迫し、援助を引き出してやろうというのは話にならないほどひどいことです。戦争に反対し平和を求め1日も早く民主社会を作るために、みんなで努力したいと思っています。」
リ・ジュン氏が追う大変化の北朝鮮
【司会者・田丸美寿々さん】(スタジオにて)
「今日ご覧いただいた北朝鮮の最新映像、地方政府の幹部たちがあの核実験について会話している中で、まぁあまりにもその核実験に対しての認識の甘さ、あるいは認識のなさということには驚かされてしまうんですが、一方でそんな役人たち、いわゆる権力を持った側の人間に対しての市民たちですね、自分の権利を主張して抗議している姿というのもこれまでほとんど北朝鮮で見られなかった光景です。別の見方をすれば、自らの生活を守り権利を行使しようとする市民の意識が変化してきたということも言えるわけですよね。
まぁ特にそうした意識の変化がですね、若い世代を中心にさらにこれからも広がっていけば、そうした変化が積み重なって不条理な社会を変えていこうとする、そんな大きなうねりにつながるのではないか、そしてまた私たち日本人も、今起きつつあるそうした北朝鮮の一大の変化を見過ごさないようにしなければ、と石丸次郎さんは話しています。」
(ディレクター 吉田豊さん 砂沢融さん 制作協力 アジアプレス)
終わり
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