「おばさん、火のつけ方がうまくないな」カメラがとらえた覚せい剤取り引きの現場。「北朝鮮のお金やな。金正日の肖像が入ってる」取り引きが行われたのは北朝鮮国内だった。北朝鮮に逆流し広がっていく覚せい剤汚染。鉄の独裁体制をも蝕んでいくのか?
【司会者・田丸美寿々さん】(スタジオにて)
「続いての特集は北朝鮮です。アメリカを中心とした北朝鮮に対する金融制裁は、じわじわと言わばボディブローのように北朝鮮を締め付け、違法なビジネスに様々な深刻な影響を与えているようです。で、その激変の一つを示します映像を私たちは入手しました。一部、映像に見づらい箇所もありますけれども、どうぞご了承いただければと思います。」
北朝鮮で売買 白い固形物
【ナレーター】
北朝鮮咸鏡北道(ハムギョンホクドウ)の都市・清津(チョンジン)。市場では魚介類・果物・キムチなど、様々な物が売り買いされています。しかし中朝国境に近いこの街では、違法なある物の取り引きもされていました。私たちは民家の一室で行われたその映像を入手しました。
【女性】
「品物を・・・」
【ナレーター】
横じまが入り、時折乱れも生じる不完全な映像。これは去年、身元を明かさない条件で撮影されたものです。
布が敷かれた後に、ビニールに入った白い固形物が持ち込まれました。手に取ると角砂糖のようにも見えます。ここで映像はクリアーになります。
【男性】
「これはキレイだなぁ。キレイなんだけど・・・。」
【女性】
「キレイどころじゃないですよ。正直、これだけの品質はちょっとないですよ。」
【男性】
「そうかなぁ・・・。」
【女性】
「はっきり言いますけど、別に私の品物をあなたが買ってくれなくてもいいんですけどねぇ。」
【ナレーター】
この角砂糖のような物をめぐって取り引きをしているようです。これは何なのでしょうか?
【女性】
「でも品質は問題ないでしょ?このくらいだったら。」
【男性】
「そうだな。これくらいだと十分味はあるよ。」
【女性】
「味見もして」
【男性】
「じゃ、この道具で・・・」
【ナレーター】
「味見をしよう」と言う男女。次の瞬間、カメラが映し出したものは―。
【女性】
「やり方がわかってるみたいね」
【男性】
「わからなくてどうする。もうこれしか金儲けができないのに。」
大逆流!北朝鮮の覚せい剤
【ナレーター】
角砂糖のような物を焙る女と吸引機で煙りを吸う男。角砂糖のような物は、覚せい剤です。これは北朝鮮で行われた覚せい剤取り引きの現場映像なのです。
【女性】
「味はどうですか?」
【男性】
「雑味がないなぁ。これは何時間くらいしたら幻覚が起きてくるんだ?」
【女性】
「最近はねぇ、女たちでも大体3回やれば幻覚が起きるんだけど・・・」
【男性】
「品物はいいことはいいなぁ」
【女性】
「私たちは生産者ですからねぇ、基本が・・・」
【ナレーター】
その常習性から心身を蝕んでいく覚せい剤。北朝鮮でも禁止されていますが、この男女に罪を犯しているという緊張感は見てとれません。
【関西大学・李英和(リ・ヨンファ)教授】
「結構量が多いな。ハムンの製薬工場のか。レポート通りや・・・。」
【ナレーター】
「レポート通り」だと話すこの人物は、関西大学の李英和(リ・ヨンファ)教授。北朝鮮の人権問題に取り組む民間団体「RENK」(レンク)の代表も務めています。
【関西大学・李英和(リ・ヨンファ)教授】
「最も印象に残ったのは(北朝鮮)国内でね、覚せい剤が大規模に流通している。本来海外に出ていく物が国内に大逆流している、という様子がはっきりと見てとれますよね。まぁ吸引器具がね、しっかりしたものがあると。(北朝鮮の)市場で平気で売られている、という話をよく聞きますけども、それを裏付けるような映像ですよね。」
【ナレーター】
「北朝鮮への覚せい剤大逆流を示す」という映像。
【男性】
「モノはいいよ。ハムン・・・、おばさんはハムンから来たって言ったよな?」
【女性】
「はい、ハムンから来ました」
【ナレーター】
北朝鮮の工業都市「ハムンから来た」と密売人の女は言います。ハムンにある工場は一大生産拠点とされます。かつて、麻薬生産に関わった脱北者はこう話します。
【麻薬生産に関わった脱北者】
「覚せい剤を生産する所は北朝鮮では4か所あります。ケソンの化学工場、ピョンソン、ピョンヤン、それからハムンにあるフンナム製薬工場で生産します。工場の一日の生産量は50キロだそうです。」
【ナレーター】
脱北者によると、「覚せい剤は4つの工場で大量に生産されている」といいます。李英和(リ・ヨンファ)教授が代表を務める「RENK」は、アメリカが北朝鮮に科した金融制裁の影響を調べるため、多くの北朝鮮住民から聞き取り調査を行いました。その結果、非常に深刻な事態が北朝鮮国内で進行している事がわかりました。
《調査報告書(覚せい剤関連)》
「“オルム”(氷)と呼ばれる覚せい剤が、とてつもない危険に成長している。」
【ナレーター】
「RENK」(レンク)による(2006年4月の)調査報告書。咸鏡北道(ハムギョンホクドウ)に住む覚せい剤密輸業者からの情報を中心に作成されたものです。覚せい剤の事を北朝鮮では氷という意味の“オルム”という言葉で呼んでいます。この報告書では“ヒロポン”という覚せい剤の俗称も使われています。
《調査報告書(覚せい剤関連)》
「覚せい剤は最近2年間、その流通量が飛躍的に増大した。外国への密輸出だけではなく、国内消費も急激に増大している。」
【ナレーター】
報告書は「北朝鮮で覚せい剤の所持や使用についての処分が軽くなり、罪であるとの認識が薄れたため、流通と消費が急激に増えた」としています。さらに―。
《「RENK」の報告書》
「(党や軍の)幹部たちと高所得者が、普通の嗜好品であるタバコや酒のように“オルム”(覚せい剤)を常用し始めている。大体、1人数キロの覚せい剤を保有しているのが現実であるという。朝鮮ではこれから“麻薬の時代”というすう勢により、“オルム経済”(覚せい剤の経済)が立ち上がろうとしている。」
【ナレーター】
北朝鮮が直面する“覚せい剤の経済”“麻薬の時代”の時代とは。
一昨年(2005年)5月の中朝国境。川を渡って来るのは麻薬密売人です。北朝鮮から取り引きにやって来たのです。
【記者】
「ご苦労さま」
【ナレーター】
新聞紙に包まれていた物はアヘン、麻薬でした。
【記者】
「この薬はどこから出てきたんですか?」
【北朝鮮の麻薬密売人】
「党の幹部が使うものだ」
【記者】
「まだ聞きたい事があるんだけど・・・」
【北朝鮮の麻薬密売人】
「早く、早く戻らないと・・・」
【ナレーター】
ステテコ姿のまま戻っていく麻薬密売人。彼は工作員などではなく、北朝鮮に住む一般の住民だとみられます。
【関西大学・李英和(リ・ヨンファ)教授】
「以前はね、(覚せい剤を)国家ぐるみで作って国家ぐるみで公務員に類する人たちが、あるいは工作員が(覚せい剤を)売っていたんですけどもね、日本での海上ルートが封鎖されて、そして外国で売る場合でも公務員が捕まったり、工作員が捕まると、『国家ぐるみだ』と言われるのを恐れて、したがって民間人が流通と販売を卸し、そして小売も含めて受け持っていると。まぁ『民営化した』ということですよね。」
【ナレーター】
攻撃を受けて沈没した工作船。(映像 2001年12月)以前は工作員によって密輸出されていた麻薬が、今は一般住民によって売られている、といいます。また、アメリカの金融制裁によって北朝鮮関連の口座が凍結、違法な手段での外貨獲得を防ぐため麻薬や偽札に対する監視も厳しくなりました。外貨不足に陥った北朝鮮。あてにしたのは自国民が懐(ふところ)に抱えている外貨だった、といいます。
【関西大学・李英和(リ・ヨンファ)教授】
「海外に売るだけじゃなくて、国内の国民にも(覚せい剤を)売って外貨を吸い上げようと、まぁ外貨稼ぎの苦肉の策と。しかし一種の禁じ手に近いですよね。結果、北朝鮮の中は覚せい剤の大乱用期に入っています。(覚せい剤は)国民的なヒット商品というふうに言い替えてもいいくらいですよね。」
【ナレーター】
北朝鮮国内で撮影された覚せい剤取り引き映像。それは覚せい剤大乱用期の現状を生々しく伝えていました。
【女性】
「これちょっと、あなたもちょっと味見をしてみてください」
【男性】
「粉もちょっとやってみるか」
【ナレーター】
覚せい剤の試飲を続ける密売人の男と女。男は覚せい剤の粉についても「味見したい」といいます。再び吸い始めました。
【男性】
「おばさん、火のつけ方がうまくないな、もう一回やってくれよ。とにかく味はいいよ。おばさんも一回やってみろよ。」
【女性】
「私もやるんですか?」
【男性】
「全然やってないから」
【ナレーター】
覚せい剤の試飲はおよそ20分間続き、その後、商談が始まりました。
【男性】
「これ、全部入れていくらだ?」
【女性】
「これですか?」
【ナレーター】
男は覚せい剤を再び袋に入れました。そして女は天びんで重量を測ります。覚せい剤は300グラムを超える量でした。
【男性】
「値段はどうするつもりだ?」
【女性】
「だから私は(1キロ)1万3,000ドルのつもりで来ました。」
【男性】
「おれの考えとしては(1キロ)1万ドルにして・・・」
【女性】
「いやいや、どうして他人の品物をそんなことできるんですか!これを1万ドルにするとしたら、もうどっかに売ってますよ!」
【ナレーター】
値切りたい男と譲らない女。交渉の末、300グラム3,300ドル、日本円にしておよそ20万円で決着しました。日本に入ってくる覚せい剤の末端価格は、1グラムおよそ6万円と言われています。となると、300グラムは1800万円に換算されます。北朝鮮国内で覚せい剤は(日本の)45分の1の価格で取り引きされていました。
交渉成立後、男は札束を取り出します。札束には金日成主席の肖像。北朝鮮の紙幣です。
【女性】
「数えてみますね。とにかくお金のやり取りですからねぇ。」
【男性】
「ああ、当然だよ」
【女性】
「数えてみないと・・・」
【ナレーター】
北朝鮮の金を数え始める女。取り引き成立です。覚せい剤は(男の)バックの中にしまいこまれました。そして取り引きを終えた男はそのまま部屋から出て行きました。
【女性】
「ご苦労さん、さようなら・・・」
【ナレーター】
覚せい剤取り引きの映像を見ていた関西大学・李英和(リ・ヨンファ)教授。
【関西大学・李英和(リ・ヨンファ)教授】
「おっ、北朝鮮のお金や。金日成の肖像が入ってる。ふぅーん。北朝鮮のお金を払っているところを見ると、国内での取り引きやね、完全にね。使用先が国内という事になるね。」
【ナレーター】
北朝鮮の紙幣で行われた取り引き。「この覚せい剤が北朝鮮国内で流通していることを示している」といいます。そして「RENK」の調査報告書には、北朝鮮の社会が覚せい剤に蝕まれていく実態が詳細に記されていました。
《「RENK」の報告書》
「現在朝鮮では、上流層の友人訪問に“オルム接待”、覚せい剤で接待をするのが最上だという交際が広がっているという。」
【ナレーター】
報告書では「ストレスと肉体的苦痛、疲労の積み重なる北朝鮮の社会環境が、覚せい剤まん延の根底にあった」としています。さらに―。
《「RENK」の報告書》
「警察、秘密警察の従事者たちまでが“オルム”覚せい剤に接近し、没収などのかたちで私有し、あるいは使用している。」
【ナレーター】
「覚せい剤は党や軍の幹部、高所得者を中心にまん延し、最近では地方都市の中学生が使用したケースもあった」といいます。
【関西大学・李英和(リ・ヨンファ)教授】
「当然、(覚せい剤)中毒になって色んな問題が起きていますけれどもね、軍の幹部たちが必要になるというぐらいの中毒にかかる事も珍しくはない。その結果、北朝鮮の中で入院するわけにはいきません、ウワサが立ちますから。『あの軍幹部は覚せい剤中毒です』という事になってしまいますから。密かに中国の病院に行って治療を受ける軍幹部も多いですよね、最近。」
【ナレーター】
北朝鮮社会を蝕む覚せい剤の大逆流。こうした中、北朝鮮が外貨を獲得していたもう一つのモノも逆流し始めています。それは―。
(2)に続く
*1/14 TBS「報道特集」(2)
北朝鮮に異変 蝕まれる独裁体制(ニセ札)
http://aoinomama13.seesaa.net/article/32283030.html
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